サイクルタイムとは、開発の作業に着手してから、その作業が完了するまでの経過時間です。 リードタイムと並んで開発フローの速さを測る代表的な指標ですが、この2つは測り始める「起点」が違います。 しかも呼び名の揺れが大きく、ツールや組織によって指す範囲が異なるため、定義を確認しないまま数字を比較すると誤った結論を導きます。 この記事では、リードタイムとの違い、測り方、そしてサイクルタイムが縮む理屈(リトルの法則)を整理します。
リードタイムとの違いは「起点」
一般的な使い分けでは、リードタイムは依頼が発生してから届くまで、サイクルタイムは作業に着手してから完了するまでを指します。
| 指標 | 起点 | 終点 | 誰の視点か |
|---|---|---|---|
| リードタイム | 依頼または起票 | 完了または提供 | 顧客(待たされた時間の全体) |
| サイクルタイム | 作業への着手 | 完了 | チーム(実際に作業が流れていた時間) |
リードタイムには、着手される前の「順番待ち」の時間が含まれます。 チケットが起票されてから2週間バックログに眠り、着手から2日で完了した場合、リードタイムは16日、サイクルタイムは2日です。 顧客が体感するのは16日です。 サイクルタイムの2日は着手後の流れを、残りの14日は優先順位や投入能力を診断する材料になります。 改善する場所を切り分けるために、2つの指標を分けて持ちます。
ただし、この使い分けは慣習であって、業界で統一された定義はありません。 たとえばDORAの「変更のリードタイム」は、コミットから本番デプロイまでを測る指標です。 起点が作業開始の側にあるので、上の分類ではむしろサイクルタイムに近い測り方をしています。 ツールによっては、最初のコミットからマージまでをサイクルタイムと呼ぶものもあります。 したがって、社内で数字を扱うときは、名前ではなく起点と終点で会話してください。 「サイクルタイムが3日」ではなく「着手からマージまでが3日」と言えば、定義の行き違いは起きません。 (この呼び名の揺れについては変更のリードタイムの解説でも触れています)
測り方
- 起点:チケットを「進行中」に動かした時刻を使うのが最も簡単です。コミットベースで測るなら最初のコミット時刻を使います
- 終点:完了の定義を先に固定します。 マージなのか、本番反映なのか、検証完了なのかを決め、計測中に揺らさないようにします
- 代表値:日々の予測には中央値とパーセンタイルを使います。 サイクルタイムの分布は数時間から数週間まで長い裾を持ち、平均は少数の長期滞留に引っ張られるためです。 一方、リトルの法則を使うときは長期平均を使い、目的によって代表値を分けます
カンバンでは、過去の実績から「85%の作業は◯日以内に完了した」というサービスレベル期待値(Service Level Expectation、SLE)を置く例があります。 平均値だけでは完了確率を示せませんが、パーセンタイルなら期間と確率を組み合わせた予測として使えます。 ただし、85パーセンタイルは納期の保証ではなく、同じ条件が続いた場合にも約15%は超過し得るという見積もりです。 作業の種類や開発フローが変わったら、直近の実績で更新します。
なぜ縮むのか:リトルの法則
サイクルタイムには、待ち行列理論で使われるリトルの法則が成り立ちます。 長期平均を取り、対象とするシステムが安定していることが前提です。
平均サイクルタイム = 平均仕掛かり数(WIP) ÷ 平均スループット
仕掛かり数(WIP:Work in Progress)は同時に進行中の作業の数、スループットは単位時間あたりの完了数です。 この式が示すのは同じ完了ペースで同時に抱える作業が増えるほど、1つの作業が終わるまでの時間は比例して延びるという関係です。 10件を並行で進めるチームと3件に絞るチームでは、完了能力が同じでも、1件あたりの滞留時間は3倍以上違います。
ただし、この式だけから「WIPを減らせば必ず速くなる」とは言えません。 WIPを減らしすぎて担当者や設備が仕事を待つ状態になれば、スループットも下がるからです。 需要が処理能力を上回り、同時並行が増えすぎているチームが対象です。 この場合はスループットを落とさない範囲でWIPを減らすことがサイクルタイム短縮の有力な打ち手になります。
- WIP制限を設ける:1人あたり同時2件まで、チームで同時5件まで、のような上限を決め、上限に達したら新しい作業に着手せず、進行中の作業を終わらせることを優先します
- 滞留を毎日見る:「進行中なのに数日動いていない作業」を朝会で確認します。レビュー待ちなのか、確認待ちなのか、詰まりの理由ごと解消します
- 作業を分割する:大きな作業はサイクルタイムのばらつきを生みます。 最終的に届ける成果は変えず、独立してレビューや検証ができる単位に分けてから着手します
「新しく始めるのをやめて、終わらせることを始める」というカンバンの標語は、この式の実務的な言い換えです。
注意点
サイクルタイムだけを縮めても、リードタイムが縮むとは限りません。 着手前の待ち行列が長いままなら、顧客の体感は変わらないからです。 待ち行列の側を短くするのは、優先順位づけと「そもそも着手しないものを決める」判断の仕事で、これはサイクルタイム改善とは別の投資です。
また、サイクルタイムを目標や評価にすると、作業を細かく割って数字を作る動機が生まれます。 分割そのものは良い実践ですが、指標のための分割は何も改善しません。 評価には使わず、診断の道具にとどめる原則は、開発生産性の指標全般と同じです。
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